多田李衣菜とピーターパン

 

”I don't want ever to be a man," -Peter and Wendy, 1911, J.M.Barrie.

 

 

冒頭の一文は、かの有名なピーターパン(Peter)の発した言葉である。

-I dont want ever to be a man(僕は今まで、大人になろうとは思うことはなかった)。

この言葉は、ピーターパンとは何者なのかを端的に表している。

ー「大人ではなく、子供」。

或いは、その造形をこうなぞらえる人もいる。

ー「大人になりたくない子供」と。

 話は変わるが、読者の皆様はアイドルマスターシンデレラガールズをご存知だろうか。私がそのデレマスと出会ったのは一昨年、高2に上がった時のことだ。

 昔から音ゲーは嗜む程度には遊んでいたので、スマホでも音ゲーを遊びたいなぁ、と思いデレステをインストールしたわけだ。当初から高森藍子さんに惚れ込んで一応藍子Pを名乗ってきたわけだが、その話はまた今度。

 しばらくプレイしていると石も貯まってきたので、ガシャを引いた。何回か引いた後、最初のSSRが出た。SSR[目を開けて見る夢]多田李衣菜。NもRもSRもそんなに引いてなかった時分だったから、あれが多田李衣菜との最初の出会いだった気がする。

 それから半年経った頃、丁度5thのSSA公演があった。音ゲーから入ったものの、折角だしということで近所の映画館のLVをとって、始まるまでの間、コミケのアフターにふらっとSSAを訪れた。

…嗚呼、けやき広場のあの熱気!たくさんのプロデューサー!そして、LV会場に広がるコールと一体感、そして高揚アンド高揚の4時間……

もしあの日チケット代を参考書に回していたなら、未だにCDを買うこともサイリウムを折ることもなかったであろう……それほど私は感情を動かされたのを覚えている。

 デレマスに触れ始めた私は、CDを買い集め始めた。確か、その内に多田李衣菜歌う"Twilight Sky"のフルを初めて聴いた。

 私は泣いた。 いや、PCで取り込み作業中だったから涙は落とさなかっただろう。だが、確かに泣いた。俺が後生大事に思っている、卒業したくないと思っている「青春」が……甘酸っぱさ、将来への希望、そして幾ばくかの不安といった「青春」が、儚さもそのままに全部内包されている。体現されている。そう思った。

この時からだろうか。折しも三年生に入ったばかりの時であったから。私は、この”高校生"という尊い時間が、友人との時間が、「青春」がいつか終わる、そんな残酷な真実を、図らずも目の当たりにすることになってしまったのかもしれない。それ以来、"高校生”から変わりたくないというような漠然とした思い、郷愁のようなものを、ずっと抱えている。

話はピーターパンに戻る。ピーターパン症候群というものをご存じだろうか。永遠に子供のまま、大人になろうとしない未熟な成人男性のことを指している。それに類似して、永遠に子供と大人の間に漂流する大人は、”モラトリアム人間”と呼ばれる。提唱者小此木圭吾によれば、そんな人間が増えているのだという。

 多田李衣菜はアイドルであり、”本物”だ。実際にそこにいるような感覚すらある。まさに、青春の”偶像”だ。そう思う。でも、彼女は、そこに留まろうとはしない。

未来永劫変わらない◇それじゃつまらないよね …Twilight Skyでもそう歌っている。

私は、ここに教えを得た気がする。青春の記憶をずっと内に持ちながら、自分を変えていく。成長していく。これこそが多田李衣菜の生きざまであり、俺の行くべき道である、と。ロックだなあ。ロックなアイドル、多田李衣菜の真髄だ。私はそう思う。

Peter and Wendy の最後では、ウェンディはピーターと別れ、ピーターパンはまた新たな子供のもとに向かう。そこから言えば、多田李衣菜こそピーターパンなのかもしれない。子供の成長の一ページに道標を括り付ける、そんな役割。一つ李衣菜がピーターパンと違うとすれば、多田李衣菜は自分自身も成長の途上にあるということだろうか。

私はピーターパンなのかもしれない。ただ、JMバリーの書いたピーターパンと今の自分が違うのは、自分に”大人”が迫っている、ならないといけない。という自覚と、多田李衣菜というアイドルだ。彼女を”青春”のシンボリックとして。”成長”の道標として。この先人生を歩んで行けたらなあ。と思う。

…まずは大学入試ね。来年の2月、卒業して成長できるようにしたいわね。あと半年、多田李衣菜と、高森藍子と、アイドルと、青春の記憶を胸に頑張ります。

 

 (追記)多田李衣菜の誕生日は6/30なのになんでこんな時期にと思った方もいるのではないかと思いますが、誕生日を迎えた後、背伸びして日常を眺められる誕生日翌日こそ、このテーマにふさわしいと思ったんです。…てかっこいいこと書いたはいいものの、推敲してたら普通に翌々日になっちゃいましたね(悲しいなあ)